イケメン伯爵の契約結婚事情
「案内がついてしまうと自由に見れないからな。今のうちに全体を把握しておこう。屋敷の北側に広がる一帯は叔父の農園だ。一段高くなったあの丘の上まで、だな。あっさり案内すると言ったところを見ると、問題の場所は案内する気がないということだろう。怪しいのは案内されない場所だ」
なるほど、問題ないところだけを見せるというのはありうる話だ。
エミーリアは一帯の光景を目に焼き付ける。
茶畑があり、花が咲いている畑もあれば、枯れかけているものもある。温室もいくつかあり、そちらは中が確認できない。それと丘の上、綺麗な紫色の花が群生していた。
「あれ、……何かしら」
遠目ではラベンダー畑に似て見える。草丈がそこそこあり、緑と紫色の絨毯のようだ。
その奥に白い花の列も見える。
「……あまり見ない花だな。いや、でもどこかで……。後で近くで見れないかな」
「私、お願いしてみましょうか」
「フリード様、カテリーナ様が戻ってこられます」
「分かった」
フリードとエミーリアは急いで席につく。と、途端にフリードがエミーリアの髪を指に巻き付け始める。
「何をするの?」
「いいから合わせろ」
「なにを……」
「綺麗な髪だ」
そしてあろうことか、髪に口づけを落とす。
いきなり甘い言葉を吐き出した夫にエミーリアが戸惑っていると、同じように呆れた声が戸口の方からする。