イケメン伯爵の契約結婚事情
「お砂糖はいれなくていいの?」
「いつもは入れるんですけど。このクッキーが甘いので大丈夫そうです」
そのまま、エミーリアはカテリーナと会話をする。主にベルンシュタイン領の話を聞かれ、正直に答えていたが、その会話一つとっても、カテリーナにおかしなところは全くない。
“人嫌いだから”
そう言ったアルベルトの意図は何だったのだろう。
やはり、この屋敷に人を近づけないためだったのか。
「叔母上、そろそろ農園を見せていただけますか?」
フリードの提案で全員が立ち上がり、カテリーナは執事のエグモントを呼びつける。
「案内してあげてちょうだい」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
エグモントは口元に蓄えたひげが豪華すぎて、あまり表情が読めない。
「エグモント、花を見たいんだ。叔父上の農園の花は高値で売れると評判だからな」
「それではこちらへどうぞ」
招かれたのは温室だ。
赤、紫、白、黄色、色とりどりの花が区分けされ育てられている。
確かに品質は良く、花の色も美しい。
けれど、それが西側地区で見たものとそこまで変わるかと言えばそうではない。
「花畑はこれだけか?」
同じような疑問を感じているのか、フリードが問いかける。
「春の花は一部外に。あとは、食物用の畑です」
「……丘の上の紫の花は?」
おずおずとエミーリアが聞いてみると、エグモントは一瞬エミーリアを凝視し目を伏せて答える。