イケメン伯爵の契約結婚事情
「あれは根が食用になるんです。サツマイモのような甘い味がしますよ。栄養価も高く、北方諸国で人気があります」
「聞いたことがないな。そんなにいいものならなぜ領内で流通していない? 近くで見せてもらってもいいか?」
「申し訳ありません。アルベルト様が、貴重な種だからあまり人を近づけるなと」
「俺は領主だぞ?」
「しかし。……この土地の責任者はアルベルト様です」
領主を前に毅然と言い放つエグモントに、フリードの眉がよる。
なおも言い募ろうとしたとき、ディルクが後ろから止めに入った。
「フリード様、無理を言ってはいけませんよ。こちらも突然来たんですから」
フリードはまだ不満そうだったが、考え直したようにうつむいた。
丘の上を遠目で眺め、諦めたようにため息をつく。
「分かった。俺が悪かった」
その場は収まったかと思えたとき、カテリーナが慌てたように出てきて、トマスに耳打ちした。途端にトマスの顔色が変わる。
「えっ、メラニーが」
トマスのつぶやきに、エミーリアも過敏に反応する。
「メラニーがどうかしたの、トマス」
「いえ。申し訳ありませんが、先に戻らせていただいてもいいでしょうか。エミーリア様はこのまま視察をお続けください」
どう考えても様子がおかしい。
こんなところに知らせが来るなど悪いこと以外ではないだろう。