イケメン伯爵の契約結婚事情
「何があったのか言いなさい、トマス」
ぴしゃりと言い放つも、トマスは目を伏せたままだ。ふたりを見回しながら、見かねたようにカテリーナが口を割る。
「エミーリア様の御付きの侍女が倒れたそうよ」
「ええっ?」
「今、夫から連絡がきたの。昨晩、メラニーという侍女が倒れたそうよ。エミーリア様の御付きだから一応お知らせした方がいいかと思い、朝から視察ルートを辿るように早馬を出したそうだわ。伝わっていたルートで見つからず、休憩にここに寄ったところ、うちにいらっしゃったから驚いたのですって」
カテリーナの声は途中から耳に入っていなかった。
どうしてメラニーが。
持病を持っているわけでもなく元気な娘だ。急に倒れるような何があったというのか。
「メラニーは無事なの? 帰るわ。私、メラニーに会わなきゃ」
「落ち着け、エミーリア」
「落ち着けないわ。私の大事な侍女よ」
フリードがおろおろするエミーリアの腕をつかんで引き寄せた。落ち着けるように頭を撫でられて、エミーリアは少し呼吸が楽になった気がした。
「トマス、荷物をまとめろ。視察は中止だ」
フリードの指示にディルクとトマスが素早く動き出す。エミーリアは夫の胸にもたれながら、メラニーの無事を必死に祈った。