イケメン伯爵の契約結婚事情


「何があったのか言いなさい、トマス」


ぴしゃりと言い放つも、トマスは目を伏せたままだ。ふたりを見回しながら、見かねたようにカテリーナが口を割る。


「エミーリア様の御付きの侍女が倒れたそうよ」

「ええっ?」

「今、夫から連絡がきたの。昨晩、メラニーという侍女が倒れたそうよ。エミーリア様の御付きだから一応お知らせした方がいいかと思い、朝から視察ルートを辿るように早馬を出したそうだわ。伝わっていたルートで見つからず、休憩にここに寄ったところ、うちにいらっしゃったから驚いたのですって」


カテリーナの声は途中から耳に入っていなかった。

どうしてメラニーが。
持病を持っているわけでもなく元気な娘だ。急に倒れるような何があったというのか。


「メラニーは無事なの? 帰るわ。私、メラニーに会わなきゃ」

「落ち着け、エミーリア」

「落ち着けないわ。私の大事な侍女よ」


フリードがおろおろするエミーリアの腕をつかんで引き寄せた。落ち着けるように頭を撫でられて、エミーリアは少し呼吸が楽になった気がした。


「トマス、荷物をまとめろ。視察は中止だ」


フリードの指示にディルクとトマスが素早く動き出す。エミーリアは夫の胸にもたれながら、メラニーの無事を必死に祈った。

< 94 / 175 >

この作品をシェア

pagetop