奏 〜Fantasia for piano〜
「君が言ったんだよ。綾をへこませるなって。
だから俺は綾と一緒に昼食をとる。学年一可愛い綾の誘いを断らないことにするよ」
奏は足早に教室を出て行く。
手を繋がれている私は、半歩後ろを小走りで付いて行った。
みんなの視線やひそひそ声が恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しくて、手の温もりにドキドキと鼓動が速度を上げていく。
おかしいな、夏休み前の私はピアノを辞めた理由が聞けたらそれでいいと思っていたはずなのに、今はそれだけじゃ物足りない。
この気持ちは恋なのか……。
それとも、五歳のときの恩返しがしたいから、もっと奏を知りたいし、近づきたいと思うのか……。
連れてこられたのは、一階の体育館の手前にある物置部屋。
体育準備室と書いてあるけど、年に一度しか使われない体育祭や文化祭関係の物が押し込まれていたり、修理予定の体育の備品が放置されているだけのただの用具入れだ。
窓には黒い遮光カーテンが引かれているのでひんやりと涼しく、薄暗い。
奏は詰め込まれた物品の隙間を縫って窓辺に行き、カーテンを少しだけ開ける。
すると一角だけ物が片付けられたスペースがあり、そこに錆びたパイプ椅子が一脚、ポツンと置かれているのが目に付いた。