奏 〜Fantasia for piano〜
いつもここで、あの椅子に座って食べていたのか。ひとりぼっちで……。
周囲と馴染もうとせず、自分から孤独を選ぶ奏を、寂しく思う。
それと同時に、秘密の場所を私だけに教えてくれた気がして喜んだ。
複雑な気持ちを抱え、勧められたのでパイプ椅子に座る。
奏は床に片膝を立てて座り、コンビニのレジ袋からパンを取り出し口にしていた。
私も膝の上にお弁当の包みを広げて、食べ始める。
「そのクルミパンおいしいよね。私もたまに買うんだ」と話しかけても、「うん」としか返事がなく、会話が続かない。
なんか気まずい……。
そう思って目を泳がせたら、壁際にアップライトピアノらしきものを見つけた。
『第三十二回体育祭』と書かれた大きな張りぼての板に隠されるように置かれていて、黒いカバーの端がチラリと見えている。
「あ、ピアノがある」
反射的に呟くと、奏が今度はちゃんと会話してくれる。
「そのピアノ、調律されてない。長年放置されてるみたいだ。
いらないなら売ればいいのに。弾いてくれる人の手に渡った方がピアノも幸せなのにな……」