奏 〜Fantasia for piano〜
奏はじっと私を見ていた。
まるで試すかのように。
無言の圧力に気圧されないよう、私も瞬きもせずに奏を見つめ返す。
その状態が十数秒続いた後に、奏は小さく溜息をつき、「手を出して」と言った。
奏の方に左手を差し出すと、彼の大きな右手が重なった。
指の間に指が入り込み、ぎゅっと痛いほどに握られる。
「握力はこれくらい」
一度離されてから今度は手の平に、彼の五指の先だけが触れる。
私の手を鍵盤に見立て、ドレミファソと弾いてくれて、気づいた。
見た目には分からなくても、薬指だけが圧倒的に力が弱い。
手を離した奏は、言葉でも説明してくれる。
「手術とリハビリを繰り返し、ここまで回復したから日常生活に不便はないよ。
だけど、ピアノは弾けない。薬指だけが言うことを聞いてくれず、音が遅れたり、鳴らせなかったり。楽譜通りに弾けないんだ」
その説明に、私は落ち込むのではなく、希望を感じた。
楽譜通りに弾けないというだけで、弾こうと思えば弾けるんじゃないかと。