奏 〜Fantasia for piano〜
「早速、ミニ演奏会といこうじゃないか」とマスターに言われ、拍手の中で私と梨奈はそれぞれの配置に着く。
う、緊張する……。
奏はひとりだけカウンター裏にいて、ポーカーフェイスでなにかの作業中。
相変わらず、冷めた態度だ。
譜面台の前に立つ梨奈を見ると、私より緊張した面持ちで、心配になる。
初めての人に囲まれ、しかも全員がクラシック愛好者なのだから、プレッシャーは相当だ。
私の方がこの空間に慣れているし、ここはリードするつもりで支えてあげないと。
「梨奈、大丈夫だよ。楽しく、ね?」
笑顔を作って声をかけると、梨奈は目を合わせてコックリと頷いた。
私達は大丈夫。
奏に教えてもらったんだから、きっとみんなを満足させられる。
初めはピアノから。
柔らかな和音で、フルートの導入を優しく促すように……。
私の音が、広くはない店内に満ちていく。
梨奈が吹き始めると、主旋律の引き立て役に徹してピアノは控え目に、途中のソロの部分は情感たっぷりに。
この第二章のタイトルは『カンティレーナ(哀歌)』。
物悲しさがにじむメロディだけど、暗さはなく、ドビュッシーに似た美しさを感じる。
音楽室で奏に色々と言われたとき、『全然分かんない!』と叫んでしまったけど、あれからプーランクという作曲家とこの曲について、自分なりに勉強してみた。
そうしたら、奏が言っていた言葉の意味も、なんとなく分かる気がする。
曲や作曲家の背景を知ることって、大切なんだね。
奏は学問として何年も音楽を勉強してきた。
奏にとって音楽は、楽しむだけのものじゃないんだろうな……。