奏 〜Fantasia for piano〜

「奏のおかげでなんとかなったよ。教えてくれてありがとう」

「うん」

「マスター達、楽しそうだったね」

「うん」


会話が続かないな……。


奏をなんとかしたい、私が救いたいという気持ちは溢れそうでも、なにをしてあげればいいのか分からなくなった。

ピアノを弾かせることに一度は成功したけど、あれ以降は頼んでも弾いてくれない。

『やっぱりピアノを弾くのは楽しい!』とは、奏はならないようで……。

これ以上、私にできることが思いつかない。


「マスターがご馳走してれたピザ、美味しかったね」と話しかけても、「うん」と言われて会話はまた途切れた。

昔はバッタが飛び跳ねただけで、ふたりでいつまでも笑い転げていたのに、もうあの頃のふたりには戻れないんだね……。


無言で地下鉄を降りて地上に出る。

空を仰ぐと、真っ暗で月の姿がなかった。

今日って新月だったのか……それとも、雲に隠されているのかな。


私の心のように、道標を失った黒い空。

まるで深い森で迷子になった、あのときのようだ。

< 183 / 264 >

この作品をシェア

pagetop