奏 〜Fantasia for piano〜
「奏のおかげでなんとかなったよ。教えてくれてありがとう」
「うん」
「マスター達、楽しそうだったね」
「うん」
会話が続かないな……。
奏をなんとかしたい、私が救いたいという気持ちは溢れそうでも、なにをしてあげればいいのか分からなくなった。
ピアノを弾かせることに一度は成功したけど、あれ以降は頼んでも弾いてくれない。
『やっぱりピアノを弾くのは楽しい!』とは、奏はならないようで……。
これ以上、私にできることが思いつかない。
「マスターがご馳走してれたピザ、美味しかったね」と話しかけても、「うん」と言われて会話はまた途切れた。
昔はバッタが飛び跳ねただけで、ふたりでいつまでも笑い転げていたのに、もうあの頃のふたりには戻れないんだね……。
無言で地下鉄を降りて地上に出る。
空を仰ぐと、真っ暗で月の姿がなかった。
今日って新月だったのか……それとも、雲に隠されているのかな。
私の心のように、道標を失った黒い空。
まるで深い森で迷子になった、あのときのようだ。