奏 〜Fantasia for piano〜
不安が押し寄せてきて、それに負けないように、自分の頬をピシャリと叩いてみた。
「綾、どうしたの?」
驚いて足を止めた奏に、作り笑顔を向けて言う。
「明日の音楽祭、頑張るね!
聴きにきてくれるよね?」
明日はバイトを入れていないと言っていた。
無理やりだけど私にピアノを教えてくれたことだし、当然聴きにきてくれるものだと思っていた。
それなのに「行かない」と言われてしまう。
「え……どうして?」
「興味ないから」
興味ないって、そんな……。
グサリと突き刺さったその言葉に、胸が痛んだ。
私への関心が低い奏。
付き合ってくれたのも、宏哉や周囲に面倒くさいことを言われないためだったし、私のことを好きなわけじゃない。
全て分かっていたことなのに、なぜか傷ついてしまった。
地下鉄の駅から自宅までは、八分ほど歩かねばならない。
私の家の真ん前まで送ってくれた奏だけど、きっとその理由も『ちゃんと送ってあげなよ』とマスターに言われたからだろう。
「また明後日、学校で」
奏は淡々と事務的に言って、背を向けると早足で歩き出す。
その背を照らしてくれるのは月の光ではなく、外灯の明かりだ。
味気なくて寂しいと感じるのは、私だけなのかな……奏……。