伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「でも、こうして、時々お会いになってるんですね。ライル様はこれからもお一人じゃないと分かって、安心しました」

クレアがそう言うと、アンドリューは鳶色の瞳をスッと細めて、こちらをじっと見据えてきた。

「変な風に聞こえるのは僕だけかな?」

「え?」

「一人じゃないのは当たり前だよ。これからは、あなたがいるんだから。……それとも、ライルのそばから離れるつもりなのかな?」

「あ……」

しまった、とクレアは焦った。アンドリューの話につい感情移入して、うっかり気を許してしまい、演じることを忘れてしまった。

「どうも、この前会った時、しっくりこなかったんだけど……。あなたはライルに対して壁を作ってしまっているように見える。どこかよそよそしいというか」

「……壁なんてありません……」

平然を装ったが、アンドリューには見透かされているようで、落ち着かない。

「無理やり、結婚を迫られてるの?」

「……違います……」

「じゃあ、ライルを愛してる?」

「……それは……」

言葉に詰まった。

考えてはいけないことだと、これまで自分に言い聞かせてきた。認めてしまったら……一度でも口に出してしまったら、もう元に戻れなくなってしまいそうだった。

母のように結局は成就しない結末に、自分も同じように傷付くのでは、と思うと怖い。

好きになってはいけない相手なのだ。

「……ライル様のことはとても尊敬していますし、お慕いしています」

クレアは言葉を選んでそう答えるのが、精一杯だった。

もしかしたら、アンドリューが今日ここに来たのはライルに会うためではなく、自分にその事を確かめるためだったのかもしれない。

< 101 / 248 >

この作品をシェア

pagetop