伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
すると、少し間があって、

「まあ、婚約してまだ二ヶ月だからね。ぎこちないのは仕方ないか。変なことを聞いて、気を悪くさせてしまったね。ごめん」

アンドリューが謝ってきた。

「いえ……」

別に怒っていないし、アンドリューの言葉を聞いて、正直クレアは胸を撫で下ろした。彼がこの話から引き下がってくれたと思った。

だが。

「でも僕は、女性が泣きそうな顔をしてるのを放っておけないんだ」

顔を覗き込むようしてに言われ、クレアは顔を上げた。

「……泣きそうって……?」

「あなたのことだよ」

アンドリューの声は、優しい。

近くで見ると、やはりアンドリューも秀麗な顔立ちをしている。まだ少し少年のあどけなさを残しているが、柔和な笑顔と気さくな雰囲気の中にも気品は光っていて、社交界でも、きっと女性の注目を浴びているのだろう。

……さすが、ライル様のご親族だわ、何か特別な血でも流れてるのかしら……。

クレアは客観的にそう思ったが、アンドリューに見つめられてもライルの時のように、胸の高鳴りは感じない。

「何か困ったことがあれば相談に乗るよ」

「お気遣いありがとうございます。でも、何もありませんから」

「本当に? 無理してない?」

「はい」

クレアが微笑むと、アンドリューは突然クレアの手を握った。



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