伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
だが、その口調からは少しも残念さは伝わってこない。

「……私を試したんですか?」

「もし、他の男になびくような簡単な女なら、ライルに忠告してやろうと思って。すまなかったね」

アンドリューは悪びれた様子も無く、クレアの手を離した。

「でも、あなたは大丈夫なようだ。今のところはね」

「……アンドリュー様はライル様のことが心配でこんなことを? もしかして、過去に何か……」

ライルの女性関係は知らないが、昔、辛い経験をしたことがあるのかもしれない、とクレアは思った。

……まさか、悪い女に引っ掛かったとか……? いいえ、ライル様に限ってそんなことはないと思うけど……!

クレアに真剣に見つめられて、アンドリューはやや驚いたような表情を浮かべた。

てっきり、というか絶対に、まずクレアは「私を馬鹿にして!」と憤ると思った。ある意味、それが正しい反応だ。

ところが彼女は、自分のことより、本気でライルを心配しているようだった。

彼女のこういうところにライルは惹かれたのかもしれないな、とアンドリューは少し羨ましく思った。

「僕の方が早く出会ってたらな……」

「え?」

「いや、何でも無い。ところで、クレア嬢……」

「クレアとお呼び下さい」

「そう……じゃあ、クレアはライルの家族について聞いたことがある?」

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