伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
クレアの声に、アンドリューも振り返る。

ライルは二人の元に辿り着くやいなや、無言でクレアの腕を掴んだ。

「痛……」と、腕に食い込む指の力に驚き、ライルを見てハッとする。

その顔は無表情だった。こんなに冷たい翠緑の瞳を見たのは初めてで、クレアの体が凍り付く。

ライルはそのまま、クレアを引きずるようにして、来た道を戻り始めた。

いつもの空気と明らかに違うことにクレアは気付き、うろたえたが、ライルの力は強く、どうすることも出来ない。

そのただならぬ雰囲気にアンドリューも慌てた。

「待て、ライル!」

だが、ライルは言葉を返さない。

「僕が悪いんだ。彼女を離してやってくれ」

「黙れ」

冷たい声で、ライルが従弟の発言を遮る。

「アンドリュー、お前は当分、この家には出入り禁止だ」

「ライル!」

「帰れ。ついてくるな」

言い放つと、ライルは再びクレアを引っ張りながら屋敷に向かった。

帽子と図鑑を置いてきてしまったが、ライルから放たれる空気が怖くて、言い出せない。

「ライル様、どこへ……?」

クレアの方を振り返らないライルは、終始無言のままだ。

クレアを連れて、二階に上がり、自分の寝室のドアを乱暴に開けた。

そのまま、クレアの腕を掴んだまま部屋の中にに引き込むと、ドアを閉め、奥へ進む。

「きゃっ!」

そして、クレアを幅の広いベッドに突き飛ばすように押し倒した。

慌てて起き上がろうとする前に、ライルの体が覆い被さってきて、体の自由を封じられる。

ライルは両手をクレアの顔の横に突いて囲むと、真っ直ぐ見下ろしてきた。

「アンドリューと何をしてた?」

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