伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……少し、お話を……」

ライルの鋭い視線に怯え、クレアは震えた声を絞り出す。

「話?」

ライルは嘲笑うかのように口角を上げた。

「君は男と話をする時、手を握り合ったり、抱き合ったりするのか?」

「そっ、それは違いま--」

「俺が来なかったら、次は何をするつもりだった?」

「え……何をって……?」

「とぼけるつもりなら、俺が体で教えてやろうか」

ライルはそう言うと顔を近付け、いきなりクレアの唇を自分のそれで塞いだ。

「!」

突然の出来事に、クレアは思い切り目を見開いた。

これまで、ライルからのキスを受けたことはあるが、そのほとんどが頬か額で--何より、どれも優しくて気遣いがあった。

だが今は、欲望に突き動かされたような荒々しい口付けで、強く唇を押し付けてくる。

何の心の準備もしていなかったクレアは、突然のライルの行為に驚いて、息をすることさえ忘れてしまった。

やがて酸欠状態になり、首を振って顔をそむけると、「は……ぁ……」と口から息を吐き出す。

その声にさらに刺激されたのか、ライルはクレアの顎を強引に掴むと再び正面に向かせ、半開きになったクレアの唇の隙間から、己の舌を忍び込ませた。

「ん……っ!」

ぬるり、と肉厚の何かが口の中に差し込まれ、まさぐれるという初めての感覚に、クレアの思考は飛び、体が硬直した。

……ライル様!……何で……!?

聞きたいのに、口を塞がれていてはどうしようもない。

震える腕を何とか伸ばし、ライルの肩を押し返そうとする。しかし、ライルは鬱陶しそうにクレアの両手首を掴むと、顔の横のシーツに押し付けた。

手首を拘束され、完全に体の自由を奪われたクレアに抵抗する術は残されていなかった。

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