伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
噛みつくようなキスをされ、びっくりして顔をしかめると、その部分を甘く舐められた。少しホッとしたのも束の間、再びライルの舌がクレアの舌を追い求め、強く吸い付く。

「も……やめて……」

息が苦しくなって、ふと唇が離れた一瞬、懇願の声を漏らすも、「まだだ」とすぐに唇を塞がれる。

まるで、クレアの全てを奪うようなキスだった。

いつも優しいライルに、こんな激しい一面があるなんて、信じられなかった。

これから自分がどうなってしまうのか見当もつかず、ただ、ライルが強引に与えてくるキスに翻弄される。



分かっているのは、彼がひどく怒っているということだけだ。

なぜなのか、分からない。

違う男と一緒にいたからだろうか。

でも、本当の婚約者でもないのに、それが原因でライルが自分に対して怒るとは考えにくい。

それとも本当に……嫉妬による行動なのか。



……ダメ……怖くて聞けない……自意識過剰だと思われるわ……。



きっと、何かライルの気にさわることをしでかしてしまったのだ。

だが、それを尋ねる機会さえ、与えてもらえない。

このまま、ライルに弄ばれるのだろうかと思うと、自分が惨めになる。




しかし、それ以上に--


大切な人の心が見えないことが、とても悲しくて。


クレアの胸は張り裂けそうだった。



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