伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
最初は、その使命感の方が強かった。

あの男が、プライドを傷付けられたと憤り、難癖を付けてまでクレアを手に入れたいとするのならば、こちらも受けて立とう。

援助金を出す約束までしてしまったが、後悔は無かった。

義母が去って、クレアは謝罪したが、もしこれが嘘だと露呈したら、あの男も義母も黙ってはいないだろうし、そうなるとクレアの身が危ない。

どうしても彼女をアディンセル伯爵家から出す必要があって、彼女の戸惑いは承知の上で、強引にも婚約者のフリを続けた。

彼女が実家を出てから、今後のことを決めようと思っていたのだ。

ライルはクレアが来るまでの間、彼女自身と家の内情を調べた。クレアの母はアディンセル伯爵の元恋人で、そのことで義母には疎まれていたらしい。父は床に伏し、異母妹にも蔑まれ、異母弟は無関心。クレアの孤独が伝わってくるようだった。

それに彼女は、今は少々あか抜けない感が漂っているが、顔立ちや体型は整っている。磨けば光るダイヤの原石だ。淑女の教育を受けさせて、あの家族が驚くような一流のレディに育てて見返してやってもいい。

そんな保護者のような感覚でいたのだが。

クレアの口から、婚約者にはなれない、とはっきり言われた。

彼女の気持ちを考えれば、当然だ。だが、そう言われると、急に彼女を手放したくなくなった。かといって、強引に迫ったりしては、あの成金男と同類になってしまう。

すると、クレアから思いがけない提案がもたらされた。


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