伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……母が生きていた時は、こんなこと一度もありませんでした……。近所付き合いも良好でしたし、母は周りからも好かれていて……人から恨みを買うような人ではありませんでした」

クレアは脱力したようにライルの肩に頭を預けたまま、ポツリポツリと話し始めた。

「細々とやってる小さな店なので、別のお店からライバル心を持たれているとは考えにくいんです……」

犯人像に心当たりはないか、と警察に問われた時も、同じように答えた。

「……だとしたら、私に原因があったんじゃないか、って思うんです……。知らず知らずのうちに、誰かの恨みを買うようなことをしてしまったのかも……」

「クレア」

ライルが静かに名前を呼んだ。

そして、クレアを抱きしめていた腕をほどくと、両手を彼女の両肩に置いた。

「君はお人好しすぎる」

「……え……?」

顔を上げると、ライルが真っ直ぐにこちらを見つめている。

「こんなこと、許されるはずがない。君は被害者なんだ。こんな時に、自分に非があるなんて考えなくていい。どんな理由があろうと、悪いのはこんな卑怯なことをする犯人なんだ」

「……」

「説教しているように聞こえたら、ごめん。君が真面目で我慢強い女性なのは知ってる。でも、自分の感情に素直になるのを忘れてしまって、それに慣れてしまうと、君自身が辛くなるよ」

……感情に素直に……?

「思っていることを吐き出してごらん。大丈夫
、どんなことでも俺が受け止めるから」

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