伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「クレアの様子はどうだ?」
翌日のよく晴れた昼下がり、外出先から戻ってきたライルは出迎えた執事に尋ねた。
「はい、先ほどお目覚めになられました。お食事は要らないと仰いましたので、メイドがお茶の用意をいたしました」
「そうか……」
無理もない。昨日はあの後、泣き疲れてしばらくライルの腕の中でぐったりとしていた。
夕食時にテーブルに着いたものの、ほとんど料理にも手を付けていなかった。
朝はゆっくり休ませたくて、メイドにはクレアが起きてくるまで寝かせるようにと、ローランドを通じて指示を出しておいたのだ。
「庭の準備は?」
「出来ております」
「ご苦労だった。クレアは今どこにいる?」
「お部屋でございます」
「行ってくる」
ライルは二階へ続く階段を昇って、廊下に差し掛かった時に、ちょうど部屋から、若葉色のドレスに身を包んだクレアが出てくるのが見えた。後ろからメイドがついてきている。
クレアはライルの姿を視界に捉えると、なぜか硬直したように動かなくなった。
「おはよう、クレア」
不思議に思いながらも、ライルはクレアの元に来て、穏やかな眼差しを向けた。
「お、おはようございます……」
クレアが恥ずかしそうにうつむく。
「……き、昨日は……申し訳ありません……。取り乱して、お見苦しいものをお見せしてしまって……」
昨日の……ああ、それでそんな表情になっているのか、とライルは納得した。
「気にしてないよ。素直に、って言ったのは俺だから。それにクレアの方から抱きついてきてくれたのは初めてだったから、何というか、嬉しかったよ」
「そ、それはっ……」
「可愛くて、そのまま食べてしまおうかと思った」
「なっ……」
……た、たた食べるって、何を……っ!?
まるで菓子でも食べるかのようにサラッと言われて、クレアはジュディをチラリと見た。ジュディはそんな二人の会話に慣れてしまっているのか、微妙に視線をずらして、微笑んでいる。
……恥ずかしい……。
「……昨日のことは忘れて下さい……」