伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「これを理由に結婚を無理に迫ったりしないから、安心して。見返りも求めてないよ」

「……はい……」

ライルが強引に女の気持ちを操ろうとするような男ではないことは、分かっている。

「でもそうは言っても真面目な君のことだから、簡単には納得しないんだろうね。商いが軌道に乗ったら、少しずつ返済してくれたらそれでいいよ」

「も、もちろんです!」

クレアも気持ちが軽くなり、表情が明るくなった。

「ひとまず、仕事の話は置いておいて、ティータイムを楽しみたいんだけど、いいかな?」

「はい!」

クレアの顔に、周囲のバラも色褪せてしまいそうなぼどの美しい笑みが咲く。ライルと一緒にいると安心して、どんなことでも頑張れる気がするのだ。

安堵すると、急にお腹が空いてきた。

「どれでも好きなものを食べていいよ」

「はい……いただきます」

サンドイッチを口に入れると、柔らかいパンとスライスしたハムとチーズの美味しさが、口の中に広がった。

……いくらでも食べられそう……。

「美味しそうに食べる君の顔を見てると、俺も楽しくなるよ。料理長が朝から張り切って作った甲斐もある」

……あ……。

クレアはゴクンと最後まで飲み込んでから口を開いた。

「ライル様、ありがとうございます。私のことを気に掛けて、考えて下さって……」

ライルだけではない。準備の手配をしてくれた執事、たくさんの菓子を作ってくれた料理長や調理人達、お茶や茶器やクロス等の用意をしてくれたメイド達、それに、朝からこの大きな天幕を庭に張り、テーブルを運んでくれたその他の使用人達……

皆がクレアのために、動いてくれた。

くよくよなんてしてられない。ここでもたくさんの人達に支えられている。クレアは心の底から力がわいてくるのを感じていた。


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