伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「いや、特に用があるわけじゃなかったんだけど……君がどうしてるか気になってね。疲れてないかと思って」

クレアの元に戻りながら、ライルが言った。

「気になり出したら、自然と部屋に足が向いてた。こんな時間に起きているわけないとは分かってたんだけど」

「心配して下さってありがとうございます。私なら大丈夫です」

クレアは微笑んで答えたが、ライルがまだ昼間の服装と同じことに気付いた。もしかしたら、まだ仕事中だったのかもしれない。忙しいのに、わざわざ様子を見に来てくれたのか。

そう思うと嬉しかった。それに、このまま帰してしまうのも……少し寂しい。

「あの……せっかく来て頂いたのですから……良かったら、部屋に入られませんか?」

一瞬、こんな時間に男を部屋に招くのは、はしたないことかもしれないという思いが頭をよぎったが、寝室に入れるわけではないし、少し話が出来れば良かったので、それほどの抵抗は無かった。

……それに、私の嫌がることはしないって、この前、約束して下さったわ……。

クレアの思いがけない申し出にライルは迷っていたようだったが、「じゃあ、少しだけ」と、部屋に足を踏み入れる。

「どうぞ」

ライルにソファーに座るようにすすめたクレアだったが、自分が薄い寝間着の上にガウンを羽織っただけの姿だということに気付いて、焦った。

「ごめんなさい、私、こんな格好で……っ。すぐ着替えて……」

きます、と踵を返そうとした時、ライルに腕を優しく掴まれた。

「すぐ帰るから。一緒に座ろう」

ライルはそう言ってクレアの手を握り、二人同時にソファーに腰を下ろす。

だが。

「え……あ、あの……」

クレアは戸惑いを隠せなかった。

ライルは座る時、後ろからクレアの腰を引き寄せると、そのまま自分の膝の上に乗せてしまったのだ。

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