伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
この体勢は明らかに不自然だ。ライルが横に座らせようとして、タイミングを誤ったのかもしれない。それにしても、女が男の上に座るなど言語道断、失礼極まりない行為だ。

「ごめんなさいっ!」

すぐ退きます、と急いで降りようとしたのだが、ライルの腕が伸びてきてクレアの動きを阻止してしまった。

「!」

後ろから、抱きしめられているような格好になったことを察知したクレアは、胸の鼓動が高鳴ると共に、頬が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

「ちょ、ちょっと……あの……ライル様……?」

「ん? 何?」

「何って……それは私の台詞です!」

「君が可愛いのが悪い」

「わ、私のせいなんですか!?」

それに可愛いとか嘘!と、クレアは抗議しようとしたが、この無理な姿勢では振り返ることが出来ない。いや、むしろ真っ赤になったこの顔を見られなくて済んで、良かったのかもしれない。

薄い寝間着とガウン越しに、背中全体にライルの体温を感じる。腕はクレアの胴に巻き付き、さらには膝の上に乗せられているため、クレアは自分の体のラインが彼に全部知られてしまったような気がして、羞恥心で一層顔を赤くした。

「一緒に座ろう、って言っただろう?」

ライルが耳元でささやく。くすぐったさに、クレアの背筋がブルッと震えた。

「……一緒って……意味が違うんじゃ……」

暴れると余計に違う所に触れられそうで、クレアは身動きが取れず、ライルに後ろから覆われたまま、じっと体を固くしていた。

「クレアとこうしてると、心が安らぐんだ」

「え……?」

「でも、嫌だったら逃げてくれて構わない。無理に捕まえたりしないから」


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