伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
太陽は沈んでも、西の方角はまだ明るい。その周りの空は美しいスミレ色で、東に向かうにつれて濃い紺色になる。
夜の外出が珍しいクレアは、馬車のカーテンの隙間から、王都の流れる景色を眺めていた。
街のガス灯がポツポツと橙色の光をともし始める。
やがて馬車はトレーゼ河の大橋にさし掛かった。トレーゼ河は、王都を東西に流れる大河で、まだ馬車が普及していない時代には、船による運搬の手段として使われていた。
……あ……。
少し窓の方へ顔を寄せたクレアに、ライルが声を掛けた。
「どうしたの?」
「あ、いえ……小さい頃、河の近くに住んでいたことがあって……その後、引っ越したんですけど、少し懐かしくて」
嫌なことがあって泣きたくなったり、落ち込んだりした時に、河辺に座って穏やかな水面を見つめているだけで、不思議と気分が落ち着いたことを思い出した。幼いクレアのお気に入りの場所だった。
……その後、決まってお母さんが迎えに来てくれて、背負われて帰ったこともあった……。
クレアはふと顔を上げると、向かいに座ったライルがじっと彼女を見つめている。
「……あ、ごめんなさい……私、外ばかり見ていて……」
二人で初めての外出なのに話もせず、ライルが気分を害してしまったのかもしれない、とクレアは不安に思った。
夜の外出が珍しいクレアは、馬車のカーテンの隙間から、王都の流れる景色を眺めていた。
街のガス灯がポツポツと橙色の光をともし始める。
やがて馬車はトレーゼ河の大橋にさし掛かった。トレーゼ河は、王都を東西に流れる大河で、まだ馬車が普及していない時代には、船による運搬の手段として使われていた。
……あ……。
少し窓の方へ顔を寄せたクレアに、ライルが声を掛けた。
「どうしたの?」
「あ、いえ……小さい頃、河の近くに住んでいたことがあって……その後、引っ越したんですけど、少し懐かしくて」
嫌なことがあって泣きたくなったり、落ち込んだりした時に、河辺に座って穏やかな水面を見つめているだけで、不思議と気分が落ち着いたことを思い出した。幼いクレアのお気に入りの場所だった。
……その後、決まってお母さんが迎えに来てくれて、背負われて帰ったこともあった……。
クレアはふと顔を上げると、向かいに座ったライルがじっと彼女を見つめている。
「……あ、ごめんなさい……私、外ばかり見ていて……」
二人で初めての外出なのに話もせず、ライルが気分を害してしまったのかもしれない、とクレアは不安に思った。