伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「いいんだ。俺はどんな君でも見ていたいから」

ライルは穏やかに微笑む。

「いつも可愛くて、綺麗だけど、今日の君はそれに加えて……大人の女性の魅力にあふれてる。ああ、もう……誰にも見せたくないな。このまま二人でどこかに行ってしまおうか」

「えっ、えええ、あの……っ」

主人であるライルが御者に指示さえすれば、それは可能なことだ。どこまで本気なのか分からず、クレアはうろたえる。

「じゃあ、そうしよう」

「ま、待ってください!あの……私、今日ライル様と一緒にお芝居を観るのをすごく楽しみにしててっ……それに、朝からメイドの皆さんがこのために頑張ってくれてっ……だから、行かないとなると、皆さんもがっかり--」

「冗談だよ」

焦るクレアを見て、ライルが可笑しそうに言った。

「……え……?」

「本当に君は可愛いんだから」

「……」

……また、からかわれた……。この場合の可愛いは、面白いって意味だったわ。

ライルがそういう言い方をすることには慣れてきたし、からかわれるのも嫌ではないと思っていたが、今回は本気で焦ってしまった分、何だか少し悔しい。

「ひどいです」

クレアは拗ねたように頬を膨らませる。ライルは、そんな彼女の手をそっと握ると、顔を近付けた。

「でも、君が素敵だということは、本当だよ」

「……っ」

瞳を覗き込むようにして言われて、クレアは真っ赤になり、鼓動が早鐘を打つ。

首の辺りまで赤くなったクレアを見て、君をどこかに連れ去りたいのも本心なんだけどな、とライルは心の中で呟いた。



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