伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
王立劇場前のロータリーは、馬車が何十台も横付け可能なほど大きく、幅も広い。

馬車が絶え間なく停車し、正装した今夜の観客達が次々と、正面入り口に吸い込まれていく。

ライルとクレアも、御者の用意した組立式のステップで、馬車から降りた。

……すごい……。

これまで街の芝居小屋にしか行ったことのなかったクレアは、初めて間近で見る劇場の大きさと荘厳さに驚いて、その場で立ち尽くしてしまいそうになった。

等間隔に灯る橙色の明かりが劇場の白亜の外壁を幻想的に照らし出し、まるでどこかの城に来たようだ。

「行こうか」

「はい……」

ライルの腕に、クレアはそっと自分の手を添えた。こういう仕草も、大分スムーズに出来るようになったと思う。

大理石の階段を上り、劇場の正面口へと入る。そこは三階分ほどの吹き抜けのホールになっていて、天井から吊られた大きなシャンデリアが輝いていた。

まだ開演時間まで少し余裕があるためか、ホールは着席前の多くの客で賑わっている。

二人がその場に姿を現すと、中の数人と目が合った。ライルが自然と人を惹き付ける力を持っているのは分かっている。だが、それは同時に、隣にいる自分も見られているということを認識したクレアは、集まる視線に緊張で足がすくみそうになった。

「大丈夫、俺がついてるよ。何があってもフォローする」

そんなクレアに、ライルは優しく声を掛ける。

「……はい」

……しっかりしなくちゃ……。今はライル様のパートナーなんだから……ライル様に恥をかかせるなんて出来ないわ。

クレアは顔を上げ、礼儀作法のレッスンで習った通り、決して下を向かず、姿勢を崩さず、優雅に歩くことを心がけた。

その時。

「……あの……ブラッドフォード伯爵……!」

声を掛けられ、二人は歩みを止めた。振り返ると、クレアと同じ年頃の娘が三人、立っている。明るい華やかなドレスに身を包んでおり、上流階級の人間であることが一目で分かる。


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