伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「と、突然、声をお掛けして、申し訳ありません……!」

栗色の髪をした、三人の中でもひときわ目鼻立ちの整った令嬢が、声を震わせながら、一歩前に出た。

その後ろで、二人の令嬢の「ロザンヌ、頑張って」と、祈るような呟きが聞こえた。ロザンヌというのが、おそらく彼女の名前なのだろう。

「……失礼ですが、噂は本当なのですか……?」

ロザンヌは、チラリとクレアを見て、尋ねた。

やや挑戦的なその眼差しは、ライルへの想いを物語っていて、クレアはたじろいだ。

「噂?」

ライルが静かに聞き返す。

「伯爵様が、婚約なさったと……。もしかして、そちらの女性は……」

「ええ。私の婚約者です」

ライルは彼女の気持ちを知ってか知らずか、はっきりと答えた。しかも--爽やかな笑顔付きで。

「……婚約者……」

衝撃的な言葉がライルの口から発せられ、ロザンヌの顔が青ざめる。

「で、でも……それは、きっと、何か理由がおありなんですよね……? 家同士の決め事で、仕方なく……」

突き付けられた現実から逃れるように、ロザンヌは理由を探る。

「理由? 私が心から彼女を愛しているということですか?」

穏やかだが、ライルの言葉は恋する乙女の心にヒビを入れるのには充分だった。

「うっ……!」

目に涙を浮かべて、ロザンヌは踵を返すと走り出し、慌てて二人の令嬢が後を追う。

……あの方、ずっとライル様のことが好きだったんだわ……。

おそらく自分が出会うよりももっと前から、と思うと、同じ相手を慕う者として、クレアは少し胸が痛んだ。


「あーあ、もったいないよね。なかなかの美人だったのに」

背後で聞いたことのある声がして、クレアは振り向いた。

「……アンドリュー様……」

「やあ、クレア」

そこには、屈託のない笑顔で立つアンドリューの姿があった。


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