伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「君達の仲の良さを見せ付けられて、それでも正面から挑んでくるなんて、なかなか勇気のあるお嬢さんだけど、今頃大泣きしてるよ。ライルも罪な男だね。かわいそうに」

「だったら、お前が行って慰めてやればいい。俺はあの令嬢と話したこともない」

うんざりしたように、ライルもようやく振り返った。

「お前も来てるとは思わなかったよ」

「僕はどちらかというと、夜会の方が好きなんだけどね。両親に無理やり連れてこられた」

「叔母上は、大の芝居好きだったね。それにしても、いい歳して、母親に頭が上がらないのか」

「あの人が強すぎるんだよ。だから、結婚するなら、可憐で可愛らしい人がいい。クレアみたいな女性がね」

アンドリューはそう言うと、クレアの手を取った。

「今日も一段と素敵だよ、クレア」

「やめろ。口説こうとしても無駄だぞ」

「分かってるよ」

ライルのアンドリューのやり取りを聞きながら、クレアは二人の顔を交互に見ていた。確か、この前は不穏な空気だったはずだが、今は普通に話している。

すると、クレアの視線の意味を感じ取ったライルが言った。

「大丈夫、アンドリューとはこれまで通りだよ。そもそも、ケンカなんてしてないし、小さい頃から俺達はこんな調子だ」

「ああ、もしかして、この前のこと気にしてる? クレアのせいじゃないよ。僕が悪かったんだから、気にしないで。さらに言うと、ライルが嫉妬深いのが悪いんだ。あの後、大丈夫だった? もしこれからの結婚生活に不安を感じるんだったら、考え直した方がいいよ」

「それはない。絶対に」

少し焦るライルを見て、「お前に聞いてないんだけどな」と、アンドリューが笑い、クレアも二人の仲が元に戻っていることにようやく安堵して、笑みを浮かべた。


< 163 / 248 >

この作品をシェア

pagetop