伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「ライルの婚約者なら、私達にとって、姪も同然だ。いや、娘かな」

イーストン子爵が言うと、夫人の瞳が輝いた。

「もちろんよ。うちは、男の子しかいないから、とても嬉しいわ。仲良くしましょうね」

夫人はクレアの手を親しげにぎゅっと握りしめると、顔を近付けた。

「あら、素敵……とても綺麗な瞳の色ね。もっと良く見たいわ」

「え……あ、はい……ええと……」

大人の色香漂う美女に見つめられ、心ならずもクレアはドキリとして、顔を赤らめてしまった。

それを見て、一瞬、不機嫌そうに眉を寄せたライルの肩を、「そう妬くな」と、アンドリューが軽く叩く。

「別に妬いてない」

「それならいいけど。でも、この貴族社会で、味方が増えるのは、良いことだろ?」

「……まあな」

夫人は一目でクレアを気に入ったのか、どんな色のドレスや帽子が好みなのか、どんな菓子が好きなのか、などとクレアを質問責めにし、ついには、今度一緒に買い物に行きましょう、と、誘いの言葉を掛けている。子爵も、妻が楽しそうに話すのをにこやかに聞いているため、三人にはこちらの話し声は届いていないらしい。

「それに、プリンセスを守るナイトが僕達だけじゃ、心もとないだろう?」

「僕達、って、お前も入ってるのか?」

「もちろん」

クレアのことを、プリンセス、とアンドリューはおどけて呼んだつもりだったが、ライルはそれを真に受けているようで、真剣な面持ちで言った。

「言っとくが、ナイトでも俺とお前じゃ、格が違うからな」

「……はいはい、言い方を間違えたよ。お前は王子様だよ」

勝手に惚気てろ、とアンドリューが呆れていると、その金髪の王子様は、叔母からクレアを引き離しにかかった。

「そろそろ時間なので行きます。また日を改めて、きちんとご挨拶に伺います」

もう、と不満を漏らす叔母の方をあえて見ずに、ライルは夫妻とアンドリューに別れを告げると、クレアを伴って歩き出した。

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