伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「叔母がしつこくて……ごめん。疲れただろう?」

歩きながら、ライルが申し訳なさそうに口を開くと、クレアは首を横に振った。

「いいえ、少しも。初対面なので私をどうお思いになるか、緊張していたんですけど……こんな私にいろいろ話し掛けて下さって、嬉しかったです」

クレアが微笑むのを見て、ライルも安堵する。

「それと、まだ君から返事をもらっていないのに、さっきから勝手に婚約者だと言い続けて、ごめん。でも、ありがとう」

「いえ、そんな……」

謝るのも、礼を言うのも自分の方、とクレアは感じている。まだ、ちゃんと返事をしていないことを申し訳なく思うし、こんな自分をそばに置いてくれていることも、ありがたいことだと思う。



その時。

「お姉様」

誰かに呼び止められたような気がした。だが、自分に向けられた言葉ではないと即座に判断したクレアは、気にせずそのまま歩みを止めなかった。

だが。

「クレアお姉様」

今度は、はっきりと名前付きで呼ばれた。

誰だろう、と声のした方を振り向き--


「!」


クレアは驚愕して、顔を強ばらせた。

そこには、金髪の巻き毛と、青い瞳を持つ美しい少女が立っていた。

その少女の、張り付けたような微笑に得体の知れない何かを感じ、クレアの背中に悪寒が走る。

「あら、私の顔をお忘れになったの、お姉様?」

「……」

忘れるはずがない。アディンセル邸で、散々クレアを蔑み、愛人の子だと罵ってきた異母妹--

「……ヴィヴィアン……」

クレアは喉の奥から絞り出すような声で、呟いた。


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