伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「こんな所で、お姉様と会うなんて思わなかったわ」

「……え、ええ……そうね……」

クレアは顔を凍り付かせたまま、唇を動かすのがやっとだった。

アディンセル邸での嫌な思い出が一気によみがえってくる。これまで、「絶対に姉とは認めない」と言い張っていたのに、お姉様、などと急に呼んできて、一体どういう風の吹き回しなのか。相手の真意が分からない今、その笑顔は不気味なものでしかない。

「新しい生活にはもう慣れて?」

「……ええ……」

クレアは素早く周囲に目をやった。

「……今日は……お義母様はいらしてるの……?」

ヴィヴィアンは、つまらなさそうに答える。

「いいえ。お母様は家よ。今日はお友達に連れてきてもらったの」

「そう……」

今日のところは義母に会わずに済みそうだと、クレアはホッと胸を撫で下ろした。

「お父様は……お元気?」

「お変わりないわ。ねえ、それより……」

ヴィヴィアンの声が急にしおらしくなった。

「……お姉様のお隣の方、紹介して下さらない?」

「あ、ああ、そうだったわね……」

クレアは、ライルの方を向いた。

「ライル様、紹介します。私の……」

クレアは何と言おうか一瞬迷ったが、今は事実だけを述べることにした。

「……妹のヴィヴィアンです……。ヴィヴィアン、こちらはライル・ブラッドフォード伯爵よ」

すると、ヴィヴィアンは上目遣いにライルを見ると、少し前に出た。

「初めまして。ヴィヴィアン・アディンセルと申します。お会い出来て光栄です。ずっとお会いしたいと思っておりましたの」

クレアに向けていた作り物の微笑ではなく、可愛らしい本物の微笑みを浮かべる。

「初めまして、ブラッドフォードです。きちんとご挨拶に伺わなければ、と思っていたのですが、遅くなってしまい申し訳ありません」

ライルの翠緑の瞳を直視して、ヴィヴィアンの頬が朱に染まった。


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