伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
いつもヴィヴィアンの意地悪な笑みしか見たことのなかったクレアは、彼女の恥じらう姿を初めて見た。

「お姉様、もう少しお話したいわ。もちろん、伯爵様もご一緒に」

ヴィヴィアンのお目当てがライルなのは、その態度からも明らかで、クレアは不安になった。ヴィヴィアンは、性格はさておき外見は、まばゆいほど輝く金髪の巻き毛と、青い瞳を持つ、誰もが振り返るほどの美少女なのだ。ライルもヴィヴィアンの美しさに心を奪われて、つい誘いに乗ってしまうのではないか。

……もしそうなっても、仕方ないわ……。

クレアの表情が憂いに曇る。

だが、ライルの返事は簡潔だった。

「せっかくなのですが、今日はクレアと二人での時間を楽しみたいと思っていますので。また、後日、アディンセル家の皆様にご挨拶に伺います」

では失礼、と、ライルはクレアの腰を軽く引き寄せると、そのままヴィヴィアンの横を通り過ぎた。

横切る際、クレアはヴィヴィアンの方に少し目を向けたが、ヴィヴィアンはショックを受けたように大きく目を見開いたまま、微動だにしなかった。

クレアもそれ以上は見るのをやめて、ライルと共に歩く。

……こんな所でヴィヴィアンに会うなんて……。

気持ちはまだ動揺している。

……でも、もう過ぎたことだわ。もうあの家を出たんだし、何も言い返せなかった昔の私とは違う。

クレアは小さく息を吐き出し、胸を張った。

「人が多くてなかなか落ち着けないね。早く席に着こうか」

ライルは、異母妹のことについては聞いてこなかったので、クレアの心も少しずつ落ち着いていった。

それに何より、ライルがヴィヴィアンではなく、自分と二人きりでいることを選んでくれたことが、クレアにはとても嬉しく感じられた。

「……はい」

ライルの腕に添えた手に、クレアは愛情を込めるように、少し力を加えた。

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