伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
それから約二時間後。
舞台の幕が下り、劇場が拍手喝采に包まれた後、一階では帰った客の空席が次第に目立ってくる中、クレアはまだその余韻に浸り、舞台を見つめたまま、席から立てずにいた。
「どうだった?」
ライルからの声掛けに、クレアはようやく我に返った。
「はい……素敵でした……! 古典劇と聞いていたので、もっと堅苦しいものかと思っていたんですが、とっても分かりやすかったです」
「そうだね。この演目の元になる話が書かれたのは四百年以上前で、時代背景も古代の王朝だけど、今回の脚本は新しく今風にアレンジされていたね」
すると、内容を思い返して感極まったクレアの瞳が、涙で潤んだ。
「……っ……王女様と騎士団長は相思相愛だったのに、離れ離れに……。騎士団長は戦地で命を落としてしまって……でも、王女様は生涯独身で、愛を貫いて、国を守り続けて……。ドキドキして、美しくて、すごく切なくて……感動しました……!」
「うん、同感だよ」
「それに、こんな大きな舞台も大掛かりな仕掛けも私、初めてで……圧巻でした!」
興奮冷めやらぬまま熱く語るクレアを、ライルは優しく見つめる。
「また観に来たくなった?」
「ええ、それは、もう!」
「じゃあ、今度の演目は何がいいか、また考えておくよ」
「え……また……連れて来て下さるんですか……?」
クレアが目を丸くし、驚いた様子で尋ねると、ライルは可笑しそうに吹き出した。
「俺はそのつもりで聞いたんだけど。それとも、俺とじゃダメかな?」
ライルの問いに、クレアは必死で首を横に振った。
「……私には、ライル様しかいません……」
小さく呟く。大きく見開かれたパールグレーの瞳が、シャンデリアの光を受けて、潤んだように輝いている。
「……」
思わず、ライルはクレアの肩を抱き寄せた。