伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ライルは一応、従弟の姿を確認すると、叔父夫婦に言った。

「申し訳ありませんが、少しの間、クレアを預かって頂けませんか?」

事情を説明する。

「ああ、もちろん、構わないよ--」と、快く答えようとした子爵に対し、「ちょっと待ちなさい、ライル」と、横に立つ子爵夫人は異を唱える。

「さっきは、私からクレアを引き離そうとしたのに、都合の良い時だけ、頼みに来るのね」

クレアが思わずハラハラしてしまうような冷たい夫人の視線を、ライルは平然と受け流すと、

「そうですか。無理にとは言いません。他の信頼出来そうな方にお願いすることにします」

クレアの腕を引いて、その場を離れようとした。

「あ、ちょっと待ちなさい、ライル!」

先ほどと同じ言葉だが、全く違う口調で、夫人は慌ててライルを引き止めた。

「嘘よ! 嘘に決まってるでしょう。もう……すぐそんな意地悪言うんだから。顔がいくら良くても、そんなことじゃ、女の子達からモテないわよ」

夫人は口を尖らせる。

「構いませんよ。俺はクレアからの愛を受けられれば、それだけで幸せですので」

サラリと言ってのけるライルに、クレアは一瞬で頬を朱に染めた。

「……ああ、もう分かったから行きなさい。クレアのことは任せてちょうだい」

「ありがとうございます」

ライルは叔父夫婦に礼を言うと、「なるべく早く戻るから」と、クレアに伝えて、急いでダーリング氏の元へと戻っていった。


< 175 / 248 >

この作品をシェア

pagetop