伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……クレアのことで?」

ライルが聞き返すと、ヴィヴィアンは、「あっ」と口元を押さえた。

「ご、ごめんなさい……つい余計なことを……。知らない方が幸せなこともあるのに……」

チラチラとライルに視線を送りながら、ヴィヴィアンは呟く。

「それは、どういうことですか?」

「……何でもありませんわ。……姉が過去の自分にきっぱり別れを告げて、伯爵だけを生涯愛する決意をしてくれたら、それでいいんです」

何でもないと言いながら、ヴィヴィアンは意味ありげな言葉を続けた。

「……クレアが過去に何をしたというのですか?」

「それは……言えませんわ。幸せを邪魔したくないですし、それに……私が余計なことを言ったと分かったら、怒られてしまいます……。姉は、その……」

ヴィヴィアンの声が徐々に小さくなる。

「……こんなこと、本当は言いたくないのですけど……その……育ちのせいか、怒るとすごく怖くて……」

「怒る? 二ヶ月間、クレアとはずっと一緒にいますが、私は彼女が怒ったところを見たことがありません」

この前、感情的になって泣いていたが、あれはライルが半ば強引にクレアの中から引き出した姿だ。怒るという類には含まれない。

「それは……姉がまだ本当の自分を隠しているからですわ。たった二ヶ月で、人の本性がお分かりになりまして?」

反論されたヴィヴィアンは、少しむきになって言った。

「私は伯爵を心配して、申し上げておりますのよ。実を言うと……姉は以前から色んな男性の元を渡り歩いているんです……。きっと、流れている血のせいですわ」

「流れている血……?」

「ええ。伯爵もご存知でしょう?昔、姉の母親は、私の父を誘惑したんです。父には、ちゃんとした婚約者がいたのに。それが、私の母です……!」


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