伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
興奮気味に肩を揺らすヴィヴィアンに対し、ライルは至って冷静だった。

「失礼ですが、自分に婚約者がいるということを誰よりもお分かりになっていたのは、アディンセル伯爵のはずです。それなのに、なぜクレアの母ばかりが責められるのですか?」

「そ、それはっ!」

同意を得られず、ヴィヴィアンの声のトーンが一段と上がる。

「卑しい手段で父に迫ったに違いありません!父はそれに引っ掛かってしまっただけなんです。下町の女ですもの、手の届く範囲に身分の高い男性が現れたら、あの手この手を使って逃したくないと思うのも当然ですわ。きっと、姉もそうに違いありません……!」

「……」

「これは内密の話なんですけど……姉が父に引き取られたある日、姉の恋人だと名乗る男性が、我が家を訪ねてきました。それが、とんでもない男で……姉が貴族の娘になったことを知って、別れる代わりに金を渡せと言って来たようなんです。とんでもない娘を引き取ったものだ、と父が嘆いていたのを聞きましたもの」

「……それは知りませんでした……内密ですか……。アディンセル伯爵が手切れ金としてその男に渡したのが多額だったのなら……あなたの家が傾く原因の一端は、クレアだということになりますね」

ライルは長い指を額に当てた。

「クレアは私の伴侶になる女性です。私には全て知る権利がある。どうぞ、続けて下さい」

「……ええ……!」

ライルが関心を示したと感じたヴィヴィアンは、わずかに口角を上げた。


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