伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ヴィヴィアンの表情が一瞬、強張る。それをライルは見逃さなかった。

「……そ、それは……」

「クレアは今回のことも、当然そちらには知らせていませんよ」

それは本当のことだった。余計な心配を掛けたくないという思いから、クレアは父親に手紙すら出していないことを、ライルは知っていた。

「……ええと、それは人から聞いて……」

先ほどまでの自信に溢れた態度とは一変して、ヴィヴィアンの声が徐々に小さくなる。

「……ほ、ほら、新聞に載らなくても、人の噂には……なりますでしょう……?」

「ああ、なるほど、そうですね。しかし、クレアの店は、上流階級で噂になるほど、有名ではないと思っていましたが」

「……」

「どうやら、私の認識不足だったようです。私も婚約者として鼻が高い。クレアも喜びます。店を再開させたら、ますます仕事に励むでしょう」

「……あら、良い評判ばかりが有名な理由とは限りませんわ」

クレアが誉められることが気に食わなかったのか、ヴィヴィアンは負け惜しみのように言うと、少し顎を突き出して、ライルを見上げた。

「その通りですよ。ですがもし、悪評が絶えない店だったのなら、いくら庶民向けの店だとしても、とうの昔に潰れています。母親との思い出が残るあの店を続けていくことが、クレアの意志であり、生き甲斐なのです。私はそんな彼女をこれからも支えていきますよ」

「まあ、あんな騒ぎを起こした姉のそばに、居続けると仰るの!?」

思いもよらないライルの発言に、ヴィヴィアンは癇癪を起こしたように声を荒らげた。

「騒ぎを起こしたのはクレア自身ではありません」

「……でもっ、その原因を作り出したのは姉の男関係で……」

「まだ続けますか? あなたには少し飽きてきました」

ライルがうんざりしたようにため息をついた。

……私に飽きた……ですって……?

一瞬、自分の聞き間違いかと思い、ヴィヴィアンは目を見開く。

「正確には、あなたの嘘の話に、です」

「……っ」

ヴィヴィアンは声を失ってたじろいだ。

< 183 / 248 >

この作品をシェア

pagetop