伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ライルは、ヴィヴィアンに握られていた手をするりと抜く。

「クレアはあなたが言うような女性ではありません。これでも人を見る目には自信はあるつもりです」

「そういう方に限って、悪い女に引っ掛かりやすいんですわ。だから、心配申し上げているんです」

「私のことより、ご自分の身を心配した方が良いのではありませんか?」

「……え?」

「先日、まだ公表はしていませんが、内密に警察から連絡がありました。ある男が今回の襲撃の犯人として、身柄を拘束されたそうです。警察も意外と仕事が早くて、驚きました。身寄りも無く、職にも就かず、昼夜フラフラしているような男なのですが」

「……そんな話に興味はありませんわ」

ヴィヴィアンはそう呟くと、ライルから視線をそらした。

「調べた結果、どうやら、ある人物の依頼を受けていたらしいのです。……それが、マリウス・ウォルターという男です。名前を聞いたことはありませんか?」

「!」

その名を耳にした瞬間、ヴィヴィアンの顔が青ざめた。だが、努めて冷静な声で答える。

「……知りませんわ」

「そうですか……。マリウスは、最近社交界に出入りするようになった資産家の子息でしてね。確か二十歳くらいです。私は話をしたことはありませんが、親の事業を手伝うべく、熱心に勉強中だという好青年だと聞きました。……ですが、その裏で良くない連中とも付き合いがあるようです」

「……興味がありません、と申し上げましたわ」

ヴィヴィアンは平然を装って言ったが、語尾がわずかに震えていた。ライルはそんな彼女を無視するように続ける。

「下町のはずれにあるバーに、彼はよく顔を出していたそうです。そして、拘束された男もそこに出入りしていました。二人は顔見知りでした」

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