伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……そんな下層階級の話、聞きたくありませんわ」

ヴィヴィアンは顔をしかめた。そうすることで表情を隠そうとしているかのようだった。

「おや、退屈でしたか? あなたの嘘の話よりは、よほど現実味があって面白いと思うのですが。では、私の独り言だと思ってもらって結構ですよ」

「……」

「その男の話によると、マリウスには最近熱を上げている令嬢がいたということです。マリウスは何らかの理由で、その令嬢から今回の襲撃を持ちかけられたようでした。ですが、自分の手を汚したくない彼は自分の代わりに遂行してくれる人物を探した。それが、身寄りのないその男でした。多額の報酬と引き換えに、その男は依頼を受けた」

「……まるで、その令嬢が私だとでも仰るかのような口振りですわね。まさかこんな侮辱を受けるとは思いませんでしたわ」

「私は忠告しているのです」

「え……?」

「今頃、マリウスにも捜査の手が伸びてきていることでしょう。その実行犯とおぼしき男の話だと最初、店ではなく、そこの女店主の命を狙えとマリウスに言われたそうです。その令嬢から、そう言われているから、と……成功すれば、自分は彼女と結婚出来る、そうなれば、お前にも一生金に困らない生活を約束してやる、と」

「な……っ」

「マリウスは警察に全てを話すかもしれませんね。人は窮地に立たされると、途端に自分の身が可愛くなるものですから」

「う、嘘よ!」

ヴィヴィアンはライルの話についに我慢の域を越えたのか、急に声を上げた。

「あの女を殺してほしいなんて、私は一言も言ってないわ! ちょっと脅かしてやるつもりだったのよ!それに、誰があの男と結婚の約束なんてするもんですか!なんて図々しいの、吐き気がするわ、とんだ嘘つき男ね!」

ヴィヴィアンは、マリウスへの怒りと、自分も捕まるのではないかという恐怖から、我を見失って、目尻を吊り上げてマリウスを罵倒した。そこに、先ほどまでのしおらしい淑女の姿は微塵も残ってなかった。

だが、すぐに自分の失言に気付き、ハッとして口元を押さえる。しかし、すでに遅かった。



「やはり、あなたの仕業なのですね」

ライルが氷のような冷たい表情で、静かに言った。

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