伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……何よ、どういうこと……?全然落ち込んでないじゃない……!

激しい嫉妬が内から燃え上がり、ヴィヴィアンは強く拳を握りしめた。

今にして思えば、そこで二人との接触は止めておいた方が良かったのだが、その時のヴィヴィアンは冷静さを失い、正確な判断力を欠いていた。

……そうよ、私の姿を見せれば……クレアと並んで立てば、伯爵だって、絶対私を……。

自信満々に、二人に近付き、『お姉様』と声を掛けた。クレアはギクリした様に、振り返った。

……そんな顔やめて。私だって呼びたくて呼んでるじゃないわよ。

心の中でフンと鼻を鳴らすと、ヴィヴィアンは気を取り直して、ライルに自己紹介をした。

そして、個人的に話をする機会を作ろうとしたのだが--

『今日はクレアと二人の時間を楽しみたいと思っていますので』

ライルはそう言って、ヴィヴィアンの誘いを断った。

ヴィヴィアンはショックで呆然とした。

それは明らかな拒絶で、もちろんそんな扱いを受けたのも生まれて初めてのことだった。

今まで、ヴィヴィアンが微笑みをわずかに溢しただけで、どんな異性も落ち着ちがなくなり、照れたように微笑みを返してくれていたというのに。

……な、何よ……私より、こんなクレアの方が良いって言うわけ……!?

自分が選ばれなかったという事実を受け入れられないヴィヴィアンは、その屈辱的な立場を挽回しようと、行動に出た。

開演前に少しの間、席を立ち、内緒でこっそりと個室を借りに行った。実はここは友人との待ち合わの場所ではなく、ヴィヴィアンがライルと二人きりになるために用意した部屋だった。

劇が終わると、知人に挨拶をしてくる、と友人に告げてその場を離れ、直ちにライルの姿を探して、そっとその後をつけた。そして、運が見方したのか、ライルが一人になったところで、男に追われている演技をしてライルに接触し、二人きりになる機会を作り出したのだった。

後は簡単だとヴィヴィアンは思った。

ライルに、クレアへの疑念を植え付けることで想いを断ち切らせ、自分の存在をさりげなく主張する。だが、ライルがクレアの黒い話題に興味を示してきたので、チャンスだと思ったヴィヴィアンの気分は高揚し--つい口を滑らせてしまった。

それからは、形勢逆転だった。ライルの話す内容に徐々に怯えて、さらには苛立ち、とうとう癇癪を起こして、犯行の発端が自分であることを白状してしまったのだ。

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