伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「マリウスは、私のことを警察に話すでしょうね。だって私、いつも彼に冷たくしていたもの……」
こんな自分を庇ってくれるはずもないことぐらい、分かっている。
ヴィヴィアンは、自嘲気味に口角を上げた。
「……ほんとに、ツイてないわね……」
「ですが、こんなに潔く認めてくれるとは、正直思っていませんでしたよ。その代わりといっては何ですが、良いことを教えてあげましょう」
「今更、何なの?」
ヴィヴィアンは力無く、軽く首を振った。
「警察は動きません」
「……は……?でも、さっき……」
意味が分からないという風に、ヴィヴィアンは眉を寄せる。
「警察は残念ながら、この事件に本腰を入れていない。近年、王都の人口は増え続けています。深窓の令嬢たるあなたはご存知ないでしょうが、その分、犯罪は多くなっていますからね。無数の小さな事件を追う余裕はないのでしょう」
「……じゃ、じゃあ、もしかして……さっきの話は……」
ヴィヴィアンの唇が、わなわなと震える。
「はい。誰も逮捕されていません」
「そんなっ……嘘だったのね!信じられない!」
キッと睨み付けてくるヴィヴィアンを、ライルは静かに見返した。
「あなたも私にクレアのことで嘘をついた。お互い様です。それに、あなたはクレアを無類の男好きだと言った。クレアに対する侮辱は私に向けられているのと同じことだ」
「……っ」
ライルの視線は静かな怒気を含んでいるようで、ヴィヴィアンは息を詰まらせた。
「それと、全部が嘘とは言っていません。半分は本当です」
「え……?」
「私が自分の身分と、被害者との関係を証明して、捜査の内容を尋ねると、警察はある情報を教えてくれました。店の辺りは夜中になると人通りが減りますが、目撃情報がないわけではないのです。店の周りを不審な男がうろついていたのを近隣の人が見ていました。だだ、それだけで犯人を特定するのは無理です」
「……そうでしょうとも。ただの通りすがりだった可能性もあるわ」
ヴィヴィアンは負け惜しみのように口を挟んできたが、ライルは気にせず続けた。
「ええ。そこで手掛かりは止まってしまいました。だから、残りは私が人を雇って調べさせたのですよ」