伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……人を雇って……?」

「ええ、素行調査が主な仕事の人間です。探偵、と言えば分かりやすいですが」

「……探偵ですって……? それでも、たった数日でなんて、無理があるわ」

「彼らの情報網を侮ってはいけません。四日前の夜、ある男が酒場で酔って暴れて、他の客を殴ったとして、警察に突き出されましてね。その男が、目撃された不審者によく似ていたそうです。男は犯行を否定し、証拠もないので、警察も拘束することが出来ず、殴られた客も被害届けを出さなかったので、そのまま釈放されましたが、その客というのが……」

「……まさか、マリウス……?」

「はい。被害者なのに、訴えなかった。おまけに、わずかな金額ですが保釈金を払ったのもマリウスでした。おかしいと思いませんか。なぜそこまでするのか」

「……マリウスはなぜ殴られたの……?」

「その夜、酒場で二人が言い争うのを、周りの客が見ています。少なすぎるだの、何やら金額のことで揉めているようでした。一体何の金についてなのか……そこから調べを進めて、それぞれ二人に探偵が接触して、話を聞き出すことに成功しました。後は、私が話した内容の通りです」

「た、探偵の言うことなんて信じられるものですか! 人のあら探しが職業なんて、ろくでもない人間よ! 作り話の可能性もあるわ……!マリウスに罪をなすりつけようとしてるのよ!」

正規の職業でない人間が調べたことなど、誰が信じるものか。少しだけ光を見出だしたヴィヴィアンは、勝ち誇ったように叫んだ。

だが、その希望もライルの次の言葉で打ち砕かれることになった。

「勘違いしないで下さい。警察は人手は足りませんが、操作能力に欠けているわけではありません。この情報を警察に伝えれば、彼らは直ちにその男とマリウスを拘束し、尋問するでしょう。あなたの名前が出るのも時間の問題だ」

「!」

「そうなったら、しらは切れませんよ。あなたは私の前で白状しましたから。私が証人です」

「……っ」

「マリウスが夢中になっている令嬢があなただということは調べが付いていましたが、本当にあなたが彼に指示したのか、あなたを問い詰めるわけにもいきません。一歩間違えれば、失礼を働いたとしてこちらが訴えられかねない。ならば、直接語ってもらおうと思いましてね」

「……まさか、最初からそれが目的で、私の話に乗るふりを……?」

「ええ。あなたが思いの外、素直な方で良かった。ああ、それと、マリウスがあなたと結婚の約束をしていたというのは、嘘です。あなたのようなプライドの高い方は、自分に関わる事が不本意であればあるほど、熱くなって訂正しながら、つい本当のことが口をついて出てくると思いましたから」

「……!」



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