伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ヴィヴィアンは口を大きく開けたが、言葉が出なかった。本当にライルの言う通りになってしまったからだ。

脱力したヴィヴィアンは、近くのソファーにろよろよろと座り込む。

「……警察に言うの?」

「それを決めるのは私ではなくクレアです」

「そう……だったら、もう決まりだわ。あの女が、私を許すはずないもの」

肩を落として意気消沈するヴィヴィアンを、ライルは一瞥した。

クレアの店が襲われたと聞いて、ライルは初めに、クレアに並々ならぬ嫌悪感を抱くアディンセル伯爵夫人の関与を疑った。だが、彼女にはクレアと店には手出しをしないという約束を取り付けているし、何よりライルから受け取る生活援助金の方が大事なはずだ。恩人を敵に回してまで、こんな大胆な行動に出るとは考えにくかった。

だとしたら、異母妹かもしれない。だが、こんな少女が本当に事の発端であるとは、そんな予感がしていたとはいえ、全く驚かなかったと言えば嘘になる。

「もし、クレアが警察に言わないと決めたなら、私もあなたの将来を考えて、ご両親には言わないでおきましょう」

「……あら……意外と慈悲深くていらっしゃるのね。ありがとう、とお礼を言っておくべきかしら……?」

「あなたのためでもあるが、何よりもクレアのためにです。この事が世間に出回れば、由緒ある伯爵家のご令嬢が真犯人、と三流ゴシップ誌は面白い可笑しく書き立てるでしょう。そうなれば、クレアも元の生活に戻りにくくなる。貴族の不祥事は、庶民の最大の娯楽ですから」

ライルの言葉にはクレアへの愛情に満ちていて、到底敵わないことをヴィヴィアンは悟った。

これまで生きてきて、初めての敗北だった。




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