伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ホールに戻ると、観客は先ほどより、やや少なくなっているように思えた。

急いで、クレアを探して回る。

イーストン子爵夫妻と話し込んでいたクレアは、ライルの姿を視界にとらえると、にっこり微笑んだ。

少しの間、離れていただけなのに、体の内側から込み上げてくるこの愛しさは何だ。ライルは人目もはばからずクレアを抱きしめたい衝動を抑え、駆け寄った。

「ごめん、クレア。遅くなった」

「いいえ。ご夫妻とお話させて頂いて、とても楽しかったですから」

「そうか。それなら良かった」

「あら、ライル、意外と早かったのね」

少し不満そうな子爵夫人が、口を尖らせた。ライルが迎えに来たということは、クレアとの楽しいおしゃべりが終わってしまうことを意味する。

「叔父上、叔母上、ありがとうございました」

ライルが頭を下げると、子爵は頷いた。

「ああ。二人とも、今度ゆっくり家に来なさい」

「ええ、是非そうしてちょうだい。たくさん美味しいもの、ご馳走するわね」

最後に夫人はクレアの手を取って微笑んでくれたので、クレアは急に名残惜しくなった。

「はい、ありがとうございます」

では、とライルがクレアの腰に手を回して、二人は出口へと歩き出した。

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