伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
そうとは知らないアディンセル伯爵夫人は、舞踏会の数日前、クレアを呼び、言いつけた。
「レディ・シルビアはあなたをちゃんと貴族教育を受けた娘だと思い込んでるわ。でなければ、あなたを招いたりするはずがありません。ダンスも踊れない、マナーも知らないあなたを連れてくことが、どれだけ勇気のいることか、分かっているでしょう? せめて、私とヴィヴィアンに迷惑をかけないようにしてちょうだい」
伯爵は体調が悪く、当然ながら参加出来ない。弟のデイヴィッドはまだ適齢期ではないので招かれていないようだ。
「目立たないように、端の方に立っていなさい。誰かにダンスに誘われても、踊れない、なんて恥ずかしいことを口にしないように。体調が優れないとでも言って、誤魔化しなさい」
夫人は、ため息をついた。
「あなたの話し相手は、私が探しますから、あなたからの勝手な行動は慎みなさい」
そして、舞踏会当日。
クレアは、夫人が衣装部屋から探すように指示した地味なドレスを、メイドに手伝ってもらいながら着て、コールドウィン侯爵邸へ、夫人やヴィヴィアンとは別の馬車に乗せられてやって来たのだった。
到着してから、まず主催者である、侯爵夫妻に挨拶をしに行った。クレアも、ヴィヴィアンの姿を横目で見ながら、見よう見まねで挨拶をした。しかし、基本的なことが身に付いていないので、かなり不格好だったのは、否めない。
だが、今日の招待客はかなりの人数で、次から次に侯爵夫妻の元へ挨拶に訪れる。なので、侯爵挨拶が済むと、夫妻があまりこちらに気を取られていないことは、逆に幸いだった。
挨拶が済むと、夫人とヴィヴィアンの姿はすでにクレアの近くには無かった。
クレアはシルビアの姿を探したが、見当たらない。誰かが、レディ・シルビアは体調が優れず今夜は来ていないらしい、と話しているのを聞いて、クレアは落胆した。
シルビア様に会えないなら、もう帰りたい……。
大広間の端に移動し、窓の外を眺める。初めて見るきらびやかな世界で、迷子のように一人取り残されたようだった。
すっかり気分も滅入っていたので、すぐそばで自分の名前が呼ばれていることにも、最初は気付かなかった。
「レディ・シルビアはあなたをちゃんと貴族教育を受けた娘だと思い込んでるわ。でなければ、あなたを招いたりするはずがありません。ダンスも踊れない、マナーも知らないあなたを連れてくことが、どれだけ勇気のいることか、分かっているでしょう? せめて、私とヴィヴィアンに迷惑をかけないようにしてちょうだい」
伯爵は体調が悪く、当然ながら参加出来ない。弟のデイヴィッドはまだ適齢期ではないので招かれていないようだ。
「目立たないように、端の方に立っていなさい。誰かにダンスに誘われても、踊れない、なんて恥ずかしいことを口にしないように。体調が優れないとでも言って、誤魔化しなさい」
夫人は、ため息をついた。
「あなたの話し相手は、私が探しますから、あなたからの勝手な行動は慎みなさい」
そして、舞踏会当日。
クレアは、夫人が衣装部屋から探すように指示した地味なドレスを、メイドに手伝ってもらいながら着て、コールドウィン侯爵邸へ、夫人やヴィヴィアンとは別の馬車に乗せられてやって来たのだった。
到着してから、まず主催者である、侯爵夫妻に挨拶をしに行った。クレアも、ヴィヴィアンの姿を横目で見ながら、見よう見まねで挨拶をした。しかし、基本的なことが身に付いていないので、かなり不格好だったのは、否めない。
だが、今日の招待客はかなりの人数で、次から次に侯爵夫妻の元へ挨拶に訪れる。なので、侯爵挨拶が済むと、夫妻があまりこちらに気を取られていないことは、逆に幸いだった。
挨拶が済むと、夫人とヴィヴィアンの姿はすでにクレアの近くには無かった。
クレアはシルビアの姿を探したが、見当たらない。誰かが、レディ・シルビアは体調が優れず今夜は来ていないらしい、と話しているのを聞いて、クレアは落胆した。
シルビア様に会えないなら、もう帰りたい……。
大広間の端に移動し、窓の外を眺める。初めて見るきらびやかな世界で、迷子のように一人取り残されたようだった。
すっかり気分も滅入っていたので、すぐそばで自分の名前が呼ばれていることにも、最初は気付かなかった。