伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約

その後、クレアは自室に戻り、ジュディが入れてくれたハーブティーのカップに口をつけていると、別のメイドが部屋のドアをノックした。

「クレア様、旦那様がお戻りでございます。お出迎えなさいますか?」

「ええ、もちろん」

クレアは急いで階段を駆け下りると、玄関ホールに入ってきたばかりのライルの姿があった。

「ライル様、お帰りなさいませ」

「ただいま」

ライルはいつも通りに、クレアの頬にキスを落とす。このドキドキと胸が高鳴る感覚が、いつの間にか心地よくなっている。

顔を上げると、ライルの優しい顔があった。だが、その表情には少し疲れが入り混ざっているような気がする。

……今日はすごくお疲れみたい……また、話は今度の方がいいかしら……。

クレアが躊躇していると、ライルの方から声が掛かった。

「クレア、話があるんだ。後で書斎に来てくれるかな?」

そう尋ねたまま、ライルはクレアの返事を待たずに、そのまま階段を上がっていった。





そろそろ訪ねてもいい頃かもしれない、とクレアはライルの書斎の扉をノックした。

……プロポーズの返事を聞かせてくれ、って言われるかもしれないわ。大丈夫、ちゃんと、自分の気持ちを伝えよう……でも、でも、すっごく恥ずかしいんだけど……!

一人葛藤していると、ライルの返事が聞こえてきたので、緊張しながら中に入る。

「遅い時間にすまなかったね」

ライルはクレアを迎えると、執務机の前に置いてあるソファーにクレアを座らせた。その横に、自分も腰を掛ける。

「……そ、それで、ライル様、お話とは……?」

変な緊張で、上手く舌が回らない。

「ああ……」

だが、ライルの声がいつもより低くなったのをクレアは感じた。その少し重々しい雰囲気に、話の先が分からず、クレアは不安を覚えた。

「鉄道事業で、現地に視察に行くことになったんだ。……しばらくこの家を留守にするになる」

「……え……?」

「少なくとも二ヶ月はかかるだろう」


< 200 / 248 >

この作品をシェア

pagetop