伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
……二ヶ月……?……それまで、ライル様とは離れてしまうということ……?

突然の内容と、その長い期間に、クレアはただ呆然として、自分が何を話しに来たのかを、一瞬で忘れてしまった。

「……どちらまで……行かれるのですか……?」

「エルテカーシュだよ」

エルテカーシュとは、このブレリエント王国より、南の大陸にある国家だ。ブレリエントの最南端まで汽車で行き、さらに海を越えなければ辿り着けない。当然、そこからは船に乗ることになる。

クレアは世界地図に詳しくなかったので、正確な位置までは把握しきれていなかったが、クレアにとって異国はすべて遠い世界だ。

「本来は俺ではなくて、別の人が行く予定だったんだ。でも、どうしても都合が悪くなってしまってね」

「……そう……ですか……」

「俺のいない間、君は遠慮なく、いつも通りにここで過ごしてくれていいよ。困ったことがあったら、アンドリューや叔父夫婦に相談に乗ってもらうといい。俺から話しておくよ」

「……はい……」

クレアは床に視線を落としたが、目の焦点が合わない。

「……いつ……出発なのですか……?」

「それが、かなり急なんだ。六日後だよ」

「えっ……」

クレアは絶句した。まさか、そんなに早く発ってしまうとは。

「すぐ……なんですね……」

「うん」

ライルはクレアの頭を掻き抱くように、自分の肩に寄り掛からせた。

「寂しくなるけど、君が待っていてくれるなら、頑張れるよ」

「……」

急な話に、クレアの思考は完全に止まってしまった。この優しい手が自分に触れなくなる日がもうすぐやって来ようなど、考えたくもなかった。







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