伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
ジュディの入れてくれたモーニングティーの良い香りが、目覚めの体に浸透していく。
……ここのところ、めっきり朝も涼しくなってきたわ……。
ベッドの上で温かい紅茶をゆっくり飲んでいたクレアは、カーテンの開いた窓から、穏やかな朝の空を見上げた。
ライルが発ってからまもなく三ヶ月になろうとしている。
昼間はまだ夏の陽射しが少し残っていると感じることもあるが、夜の間に冷やされた空気は、朝方には涼しい風となって街に降りてくる。
短い夏が終わろうとしていた。
二ヶ月というのは、あくまで予定だと分かっていた。ライルとはちゃんと手紙でやり取りしてので、現地で忙しいのだということも理解している。だが、やはり彼のいない生活は寂しかった。
それでもクレアは、いつものように店に立ち、これまで通り、レッスンもちゃんと受けている。
別れの時、ライルはいつまでも泣き止まないクレアを強く抱きしめて、『いつでも心は君のそばにいるよ』と耳元で何度も囁いてくれた。泣いて過ごすのではなく、今、自分に出来ることを精一杯頑張って、ライルが帰ってきた時に、少しでも成長した自分を見せたい。
主人のいない屋敷というのは、どうしても活気が無くなったりするものだが、クレアはそうならないためにも、自ら屋敷の至るところに花を飾ったり、使用人と話をしたりして屋敷の空気が沈んでしまわないように努めた。アンドリューも時々、クレアの様子を見に来たり、話し相手になってくれた。
そうして、クレアは愛する人の帰りを待ち続けた。