伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約

そんなある日の夕食後。クレアは自室で一人、ライルから届いたばかりの手紙を読んでいた。

ジュディはいつも通り、クレアの入浴の準備をしていた。クレアは朝早く出ることが多いので、入浴は大抵夜のうちに済ませる。

その時、勢いよく、続き部屋から浴室のドアが開いた。

何事かと振り返ったジュディは、クレアに思いきり抱き付かれ、さらに驚く。

「ク、クレア様？」

「ああ、どうしましょう、こんなに嬉しいことってあるかしら！」

「どうなさって……」

「ライル様が、お帰りになるわ！」

ガバッと顔を上げて、満面の笑みでクレアが言った。

「えっ、本当でございますか！？」

「ええ、急遽帰国が決まって一週間後にあちらを出発する、って手紙に書いてあったの！」

「一週間後、ということは、手紙が届く日数を考えたら……」

「ええ、もう、向こうを発たれてるはずよ！十日以内には、ブレリエントの港に着くと思うの」

「そう……なんですね……クレア様、よろしゅうございましたね！」

二人は手を取り合って、親友のように喜び合った。




ライル帰国の知らせは、瞬く間に屋敷中に広がり、皆、主人の帰りを喜び、さらに各々の仕事に精を出した。

クレアも、ライルの帰る日を指折り数え、幸せな気持ちに浸った。ライルが帰ってきたら、何を話そう。話したいことがありすぎる。それとも、顔を見たら胸が一杯になって、何も言えなくなってしまうだろうか。

でも、何よりもまず、笑顔で「お帰りなさい」と言おう。そして、別れの時にちゃんと言えなかった自分の想いを、全部伝えよう－－。