伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「ですが、今、ローランド様がイーストン子爵家に使いを出しているはずですから、じきに皆様お集まりになると思います。クレア様もお連れするように、言われておりますので……」

だが、ジュディの声はクレアの耳には届いていないようだった。

「ペジャンから手紙が何日で届くか分からないけど、もしかしたら、ライル様はもうブレリエントの港に着いてるかもしれないわ。いいえ、もう汽車でこっちに向かってるかもしれない」

「でも、旦那様がお戻りになる日が今日だとは－－」

「そんなこと、分かってる！」

ジュディの言葉を遮るように、クレアは強い口調で言った。それは、彼女の心からの叫びだった。

「……何でペジャンにいたのか、この手紙が本当にライル様からの物かどうかも確かじゃないけど……じっとしてられないの……！！」

「……クレア様……」

今にも涙が溢れ落ちそうになっているクレアの大きな瞳を見つめて、ジュディは少しの間、考えていたが、やがて頷いた。

「分かりました」

クレアがこの三ヶ月間、寂しい思いに耐えてきた事も、そしてこの約二週間、本当に辛い思いをしてきた事も、誰よりもクレアの近くにいたジュディは知っていた。

「私も一緒に行きます。クレア様をお一人に出来ませんから。今から戻って、ローランド様に伝えてきます。それまで、ここでお待ちになって下さい」

ジュディが走って礼拝堂を出ていく。


クレアは再びその場に膝をついて、前方を見上げた。

窓からの陽の光を受けて、祭壇の上の十字架が、いつもより輝いているように見えた。





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