伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「……ライル……様……? 本当に、ライル様ですよね……?」

「他の誰に見える?」

「……ご無事……だったのですね……?」

「心配をかけたね。ちゃんと生きてるよ」

生きてる、という言葉が、クレアの心に熱く浸透していく。

「……」

クレアは、手を伸ばしてライルの頬を包んだ。

血の通った、肌の温かさが伝わってくる。

クレアの視界が涙でぼやけた。

「……ライ……ル様……ライル様……!」

クレアは名前を呼びながら、ライルの首にしっかり腕を回して、しがみついた。

後は言葉が続かず、人目もはばからず泣きじゃくった。

ライルも、そんなクレアをしっかりと抱きしめる。

「ライル、ライルなのかっ!?」

慌ててアンドリューとジュディも、二人の元へ駆け付けた。

「旦那様……ご無事で!」と、ジュディは感極まって口元を押さえる。アンドリューも、ライルの無事な姿に安堵の表情を浮かべたが、すぐに眉を吊り上げた。

「おい、ライル!お前、今まで……」

何をしてた!?と、問いつめようとしたが、強く抱き合う二人を見て、言葉を呑み込んだ。

「……はぁ……とりあえず、僕は先に屋敷に戻って知らせてくるよ。ジュディ、あの二人を屋敷の馬車に乗せて、連れて帰ってきてくれ」

「はいっ」

アンドリューは二人のことをジュディに託すと、辻馬車を拾いに駅前の通りへ出た。



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